静 炉巌(せいろがん)です。外で大声で呼ばれると、知らない人がギョっとした顔で振り向くのです。まるで下痢でピンチの人を見るかのように。
それはさておき、『ゴルゴ13』っていうご長寿劇画があって、主人公“デューク東郷“は「オレの背後に立つんじゃない」ってなことを言うわけです。
じゃあ、“背後で座ってる“のはいいのかよ?って、オレは大森の「風に吹かれて」で藤岡藤巻ライブがある度に考えるんだよね。だって、ステージの配置的に、いつもオレの後ろにはドラムの川島さんが座ってるから。
川島さんは、2007年4月の“藤岡藤巻AXライブ“からのバンドメンバーで、20年近くも一緒にやってる仲間。でもね、ちょっと謎めいたヒトで、長い付き合いなのに、メンバーは誰も、川島さんの初恋の人の名前さえ知らない。
藤岡藤巻では、ドラムソロから祭り太鼓まで自在なドラミングを叩いてるけど、昔から“スイスカメラ“というバンドのメンバーで、アルバム『酸素と丘とレンズ』では、藤岡藤巻バンドとはまた違った繊細なプレイを披露してるの。
この振り幅の広さが、川島さんの魅力であり、同時に恐ろしさでもあるわけ。だって、振り幅が広いってことは、極端から極端にいけるってことでしょ。ほら、やさしくて誠実な人ほど、何かのきっかけで逆ブレしたら怖いっていうもの。
そんでもって川島さんはといえば、藤巻さんやオレのために、毎回ライブで鳴り物と呼ばれるパーカッションや、ビヨーンって音がでるヘンな楽器をたくさん持ってきてくれる優しい人なわけ。ほら、怖いじゃん!
昔は藤巻さんも店の灰皿とかを叩いてたんだけど、今は置いてないからね。困ってたら、川島さんが「これを使ってください」って、サッと鳴り物楽器を差し出してくれた。目からウロコだったね。「音を出すには楽器を使えばいいのか!」って思った。それからは毎回、重いのに、いろんな楽器を持ってきてくれるの。
いつだったか、とあるライブハウスで、複数のバンドが参加する企画があって、藤岡藤巻も出演したことがあるんだよ。でも、興味のないバンドのライブって退屈だから、オレは店の外で時間を潰してたの。
そしたら、川島さんも出てきたから、オレはおそるおそる「さっきのバンドって、つまんなくないですか?」って話しかけたんだよ。だって、「そういうコトは言わない方がいいですよ」って諭されると思ったし。
そしたら、予想外の毒舌が返ってきた。面白くなって、さらにケナしてみたら、軽く上回って返してくれるの。ついには、「もう、勘弁してください!」って、耳を押さえてしゃがみ込みたくなったほど。この一件で、オレの川島さんへの畏敬の念は揺るぎないものになったね。それからは、オドオドしながら接してるもん。
かと思えば、いつもの如く、藤岡さんとバカ話をしながら、“ライブの幕間の映像で、バンドメンバーが大げさな特訓をしてる映像を流したら面白いんじゃないか“ってアイデアが出てね、その場にいた川島さんも笑ってたことがあったの。
ほら、映画『ロッキー』シリーズでモンタージュされる特訓みたいなやつ。キーボードだったら、“鍵盤の指力を鍛えるために、米俵に指を突き刺す特訓“とか、ドラムだったら、“自在なドラミングのために、ドラムスティックをもって逃げるニワトリを追いかける特訓“とかさ。
例によってのバカ話だったんだけど、そしたら次に川島さんと顔を合わせた時に、「ボク、撮ってきました。見てください」ってスマホを差し出すわけ。そこには、川島さんがスティックを手に、ニワトリ(烏骨鶏)を追いかけてる動画が映ってた。もちろん、叩いたりはしてませんよ。でも、まさかホントに撮ってくるとは思わなかった。
とにかく、バカ話にもちゃんと対応してくれる誠実さは、優しさと共に、未だ発動してない逆ブレ法則の恐怖をオレの脳裏に刻み込んだわけ。
そもそも川島さんといえば超常現象愛好家でもあって、バンドでは“オカルト川島“って呼ばれてるほど。こちとら、プロのドラマーってだけでもビビってるのに、オカルトが上乗せされてるからね。スニーカーを200円で売ってる店を教えてくれたこともある。そんなの超常現象としか思えない値段じゃん!
川島さんから霊の体験談を聞いた時は、恐ろしくて死ぬかと思ったな。話の内容は全く覚えてないんだけど、話してる時の川島さんが怖かった。
もし、そこに霊が来てたなら、霊の方が「怨霊退散!」って叫んで、死に物狂いで塩を投げつけてたと思う。たぶん、そいつは今頃、「オレ、実は人間界で川島さんに遭遇したコトあるんだよね」とかって、仲間をビビらせてるはずだ。
そんなわけだから、オレはいつだって、ちょっとキョドりながら、川島さんの機嫌を損ねないようにしてるわけ。
なにしろ、大森「風に吹かれて」のステージではオレの後ろにドラムセットがあるからね。そこでは、川島さんがスッと手を伸ばせば、ドラムスティックでブスッと刺せる位置にオレがいる。
ドラムスティックの先っぽって、よく見るとイチジク浣腸みたいな形をしてて意外と尖ってるんだよ。つまりライブでは、目の前にお客さん、後ろには川島さんっていう配置で、まさに“前門の狼、肛門の虎“状態。どっちの機嫌も損ねてはいけないって、気が気じゃないのです。
ちなみに自分は、川島さんがこのブログを読んでないことを知ってるから、こんなことを書いてるわけ。だって、これがバレたら、オレは確実にヤられるもの。だったら書かなきゃいいんだけど、そう思うほどにやってみたくなっちゃって、その衝動を抑えることができなかったのです。
だから、もし私がステージで倒れることがあったなら、それはこの投稿が知られた時なのかもしれません。そして、この文章は、その時に、犯人が誰かを示唆するために、あらかじめ書き記しておく、私からのダイイングメッセージでもあるのです。